冷夏から一転した酷暑がやっと収まってきた2019年8月21日~23日に、都立高校生向けのミニ研究体験「理数研究ラボ2019:コンピュテーショナルデザイン」を開催しました。初日に参加生徒自身に研究テーマを設定してもらい、それに関する事例調査を踏まえて開発・制作を実施し、プレゼンテーションにまとめるという、研究の一連のプロセスを3日間に凝縮して体験してもらいました。
果たして、高校生達のポテンシャルの高さを思い知る機会になりました。特に最終日のプレゼンテーションはお見事でした。午前中にリハーサル、午後にプレゼン本番という流れで進めたのですが、午前中の段階では数多くの厳しい指摘を受けるような少々心配な出来でした。しかしその数時間後に、まったく見間違えるほどの堂々たる発表に仕上げてきたことに心底感心しました。まさに昼食を挟んで化けたとしか思えないほどでした。3日間を通じた調査や開発・制作への集中力と実行力も見事でしたが、この最終日の変化(へんげ)には舌を巻きました。参加生徒達自身が立案して取り組んだテーマは下記の通りです。
- バイオロジカルモーションが示す感情の評価
- ランダム制御を用いた敵キャラクタ生成とエンカウント
- 競技カルタにおける札の物理挙動の再現
- 謎解き型ホラーゲーム
- ホログラフィックディスプレイのための家屋コンテンツ制作
- シャボン玉の写実的映像生成と数学関数を用いた運動制御
- リラックス効果を持つ噴水アニメーションの制作
- 風エレメントを用いた布のはためき表現
上記のとおり、研究環境だけは同一に揃えつつ、それぞれバラバラの個性的なテーマに取り組みました。実は、高校生向けの講座と聞いた時点では、「ある1つの同じテーマを受講生全員に与え、最初はチュートリアル形式で進め、最後に少しだけ創意工夫の余地を与えようかな」と、典型的な「研究体験」のパターンが頭に浮かんでいました。教材や準備は1パターンで済みますし、受講生に均一な知識・経験を仮定できるのであれば、そこそこ上手くいく王道の進め方ですからね。ただ何日か考えた後、それで本当に「研究」の体験ができるのか疑問を感じました。受講生の個性や興味もわからない段階で策定した研究テーマがハズレる懸念はもちろん、手前勝手に履修生像やスキルを想定してテーマを設定すること自体、参加生徒に失礼な気がしました。彼ら・彼女らが高い目標を掲げるのであれば最終的に失敗しても良しとし、反対に低い目標を掲げる場合は期間中に背伸びをしてもらいたいと考えました。
そこで、「お客さん」向けの講座ではなく、実情に近いラボスタイルを体験してもらうことにしました。そのため、前期の授業を履修していた学部生をサポーターに迎えました。参加生徒の年齢層に比較的近く、学科のカリキュラムの中で課されてきた多数の「答えのない課題」に取り組んできた学部生こそが適任だと考えました。そして、あえて事前のレクチャーも行わず、研究の明確なゴールが想像できない状態を起点として、教員の最低限のサポートの下で大学3年生と高校生がともに暗中模索するという状況を設けてみました。もちろん、実施期間中にも不安な声が聞かれましたし、最後のアンケートにも改善要望が書かれていました。心苦しいところですが、お膳立てされた安易な体験に留めたくなかったので、不安や不満すらも織り込みつつ、いずれ学士号を取得するためにどのような活動を行い、その際にどのような知識修得や学修が必要なのか数年先立って体験してもらいました。
そうした実験的な場ではありましたが、参加生徒の高度な集中力と実行力、サポーター学生の献身的かつ能動的なフォローのおかげで、想定よりも高いゴールに着地できたと思います。もう一度やるか?と聞かれたら数日悩んでしまうほど疲れた3日間でしたが、生徒・学生問わず、参加者にとって何かのプラスになったのであれば何より嬉しいです。
最後に一番の反省点として、毎日日替わりのレクリエーションをやればよかったです。初日のおやつとして用意したカキ氷パーティーは好評だったので、二日目と最終日のおやつも何か企画すればよかったと悔やまれます(せめて台湾風カキ氷も用意しておけばよかった。。)