アメリカ・サンフランシスコにて開催されているACM SIGGRPH Interactive 3D Graphics and Games 2015(I3D 2015)という学会に参加しました.開催地はフィッシャーマンズワーフという観光地で,アルカトラズ島などで有名です.会場のホテルには会議参加者専用の割引宿泊価格(相場と比べると激安)が用意されていたため,ちょっと疲れたら部屋に戻って少し休憩することもできました.また,朝ご飯や豊富なスナックやフルーツも提供されたりと,とっても快適に過ごせる会議でした.
最近のI3Dの特色として,Game Developers Conferenceと同じ開催都市で会期が連続して開催される点が挙げられます.つまり,ゲーム開発者が学会に参加しやすい条件が整っています.SIGGRAPHなどの巨大学会には研究者や開発者,アーティストが当然のように集いますが,比較的小さい学会に企業から参加するのは現実的になかなか難しいです.その点,I3Dには少なくない数のゲーム開発者が参加されますので,アカデミアの研究成果を現場に直接紹介できるチャンスがあります.さらに,業界に興味がある学生さんにとっては,よいアピールの場になる可能性があります.研究テーマがゲームに関連するかはさておき,自分の研究成果を国際会議で発表できる実力を備えていることを直接プレゼンできる機会は少ないと思います.良い発表をした学生に開発者から採用のお声がかかる…なんてこともあり得るかもしれません.
今回は39件の論文投稿のうち15件がフルペーパー採択(採択率38%)ということです.例年より少し寂しい数字ですが,CFPが遅れていた等の理由もあるかもしれません.ただ,3件のキーノート講演に加え,Journal of Computer Graphics Techniquesという学術雑誌からの5件の招待講演もあったので,会議自体は充実していました.参加者はざっと見た感じで100名弱,世界中からの参加があり,日本からは3件の発表(内1件はポスター)がありました.
以下,備考録として,いくつか面白かった発表についてまとめます.なお,会議の性質上,ほとんど私の専門外のテーマばかりなので,正確性には期待しないで下さい.
- Automating Image and Video Morphing
- 初日は,マイクロソフトリサーチのCGグループマネージャーであるHuges Hoppe氏のキーノート講演から始まりました.氏のグループの最近の研究事例を紹介する講演で,画像のモーフィング,ビデオのモーフィング,そしてビデオの自動ループ化技術の3つが紹介されました.画像モーフィングは「今はこんなことができるようになっているのか」と素直に驚きました.Halfway domainという中間画像のようなものを用意し,2つの画像形状をベクトル場として表すアイデアが面白いです.その発展であるビデオモーフィングは,画像モーフィングの技術に時間軸の概念を導入することで実現されていました.いずれの研究も参考文献が時系列に沿ってわかりやすく説明されており,非専門家の私でも全体が俯瞰できた気になりました.最後のビデオループ化のお話は,ビデオ中で繰り返した動きを示している領域を自動検出し,領域間の不整合が生じないように,かつ時間的に連続的に変化するようにループ映像を作り出すという技術でした.技術の詳細については,graph-cutがキーワードとして現れたあたりで脱落しました.
- Moment Shadow Mapping
- Variance Shadow Mappingの拡張(というより一般化)手法の提案.エイリアシングを防止するためのフィルタを,4次の積率(モーメント)まで考慮して最適化しましょうというお話でした.Variance Shadow Mappingを理解していないと難しいです(私は理解していない組です).ただ,詳しいことはわからなくても30行程度のHLSLコードを書くだけでいいよ,とのことです.研究成果による画質の改善も,素人目にもわかりやすかったです.
- Frustum-Traced Raster Shadows
- ベストペーパー&ベストプレゼンテーション.シャドウマップを計算する際,光源からみた一様サンプリングを行うのではなく,視点からの一様サンプリングの結果を踏まえて,光源からは非一様なシャドウマップを計算する手法の提案.アイデアはシンプルながら,GPUアーキテクチャや並列計算向けに色々な工夫が必要だった,という報告です.細かいトリックもあり,実装はかなり面倒くさそうな印象です.
- Simulation and Rendering for Millions of Grass Blades
- ベストプレゼンテーション.草原のような,群生する丈の短い大量の草花と,物体のインタラクションアニメーションを高速にレンダリングする手法.草原マップを格子状のタイルに分割し,物体がない部分では衝突判定をスキップすることで演算を高速化しています.また,草花は塑性変形するという仮定をおいて,物体との接触時の変形を計算しています.レンダリングにはインスタンシングとLODを併用する一般的な手法のようですが,大事な何かを聞き逃している気がします..
- Position-based Fluid Control
- 任意例示形状を再現するように粒子ベースの流体シミュレーションを制御する技術の提案.指定形状に合わせて制御パーティクルを移動させ,その制御パーティクルの周辺の粒子密度が一定となるように,他のパーティクルをposition-basedシミュレーションによって制御しています.
- Building Helper Bone Rigs from Examples
- 私の講演です.途中までは良い感じだったのですが,リアルタイムデモでスクリーン標示が止まるというトラブルに見舞われ,不完全燃焼で終わりました.バックアッププランも用意しておくべきでした.残念.しかしながら,思いのほか質疑応答も盛り上がり,かなりクリティカルな質問もいただきました.国際会議は準備も大変ですが,やはり発表してよかったです.[Flickr1] [Flickr2]
- Procedural Window Light Effects for Real-Time City Rendering
- 建物の壁面モデリングの写実感を高めるために,窓の明かりもリアルにしましょうという研究.街に存在する全ての窓をレンダリングするために,ユニークな窓IDをテクスチャ座標に基づいてon-the-flyに計算するアイデアが面白かったです.室内環境レンダリングをピクセルシェーダー上で生成する部分が,もう一つの技術コアのような気がします.他にも,時間変化に応じて明るさを変えたり,カーテンを閉める部分も紹介されましたが,あまり興味を引く部分ではありませんでした.
- Applied Graphics Research for Video Games
- HaloシリーズやDestinyで知られるBungieのアーキテクトによるナイトセッション講演.Destinyの開発事例を挙げながら,ゲーム開発現場における研究開発のチャレンジについて述べられていました.ゲーム開発エンジニアにとっては「あるある」話が多かったのですが,Bungieの”色”も見えて面白かったです.
- Physics in Games
- 10年前ほどから大流行しているPosition-based Dynamicsの考案者によるキーノート講演です.PBDの概要から今年のSIGGRAPHでの発表に至るまで,全体を俯瞰しつつも詳細もわかるという,素晴らしい講演でした.Gauss-Seidelソルバーの強力さを強調されていたので,私もちゃんと勉強しなおさなければと思いました.氏のNVIDIAでの研究開発成果はnvidia Flexテクノロジーとしてリリース予定なので,非常に待ち遠しいです.
追記:講演スライドが学会公式ページにアップされています.キーノート講演では珍しいですね. - Closing
- ベストプレゼンテーション賞やベストポスター発表賞は公式ページに掲載の通りでした.プレゼンテーション賞の副賞GeForce GTX 980がnvidiaのシニア研究者に当選してしまったので,ご本人がポスター賞受賞者に譲るという粋な計らいもありました.